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No.702023年3月号)

INDEX

1.第75回日本胸部外科学会定期学術集会 開催報告 特集号
  -1.統括会長、分野会長挨拶
  -2.定時評議員会 役員等選挙(選出)結果
  -3.各種表彰
2.第17回日本胸部外科女性医師の会(Woman in Thoracic Surgery:WTS in Japan)開催報告
3.フェローシップ受賞者留学体験記

1.第75回日本胸部外科学会定期学術集会 開催報告 特集号

-1.統括会長、分野会長挨拶

No.70_75回学術集会集合.jpg (1001 KB)
左から松原分野会長(食道)、澤理事長、中島統括会長(呼吸器)、荻野分野会長(心臓)
【中島 淳 統括会長(呼吸器)挨拶】
第75回日本胸部外科学会定期学術集会開催終了の挨拶
 第75回日本胸部外科学会定期学術集会は2022年10月5日(水)から10月8日(土)にパシフィコ横浜で現地開催しました。また、これに引き続き行ったオンデマンド配信を2022年11月20日で終了し、すべての日程を無事終了いたしました。開催に当たっては、ご協力・ご支援下さいました関係者の皆様、ご参加いただいた皆様に感謝申し上げます。
 第73回定期学術集会(2020)から分野会長制が始まりました。第75回からは分野会長も互選制となり、心臓大血管分野からは東京医科大学 荻野均教授、食道分野からは千葉大学 松原裕久教授が選ばれ、3名で本学会を司ることとなりました。本学術集会は3名の会長の緊密な協力、そして各教室員の長期間にわたる準備によって成し遂げられたものと思いを新たにいたします。
 新型コロナウィルス感染症流行のために第73・74回学術集会では現地開催規模を縮小し、ライブ・オンデマンド配信など新たな開催形式を試み、成功に導かれたことは皆様よくご存じと思います。第75回学術集会も流行が収まらぬ中ではありましたが、十分な感染予防対策を講じた上で現地開催を主体とすることに決めました。一方所属施設の規定のために出張・学会現地参加が困難な会員の方々が多いことを考慮し、重要なセッションおよびポスター発表については、現地開催後オンデマンドで配信しました。2022年夏はオミクロン変異株による流行第7波があり、日本は世界の中で最も感染者数が多い状況でしたが、幸い昨年と同様に秋に向かい感染者数が減少し、予定通りの開催ができたことは幸運でした。
 第75回学術集会のテーマは「協奏する胸部外科」としました。本テーマの「協奏」は共有・協力・そして競争の意味を込めたものですが、心臓・呼吸器・食道3分野それぞれの専門分野はもちろんのこと、3分野に共通した課題に対するセッション、そして地方会との連携を深め、若手医師の積極的な参加を期待するCase Presentation Awardなど、多くの方に興味を持ってご参加いただける学術集会の開催を目指しました。さらに特別企画としては、現在胸部外科医が直面している働き方改革、新しい専門医制度に関する企画を設けるとともに、JATS-NEXTや女性胸部外科医の会の学術集会プログラムへの積極的参加をお願いして持続的な胸部外科の発展について考えていただく機会を作りました。
 学術集会の具体的な準備は2021年3月24日の第1回会長会議から始まりました。互いに専門・出身経歴が異なる3会長でしたが、合計17回にわたる会長会議の中で情報を共有するとともに、互いのアイデアを相乗的に集会の開催運営に役立てることができました。2021年5月11日にコアメンバーによる第1回プログラム委員会が開催しました。3会長とコアメンバーが全体の構成および領域横断プログラムの策定を行うとともに、さらに3分野各専門領域のプログラム委員会が専門領域のプログラムを決定しました。
 パシフィコ横浜会議センターに10の会場、および展示ホールAにポスター・口演会場を設置しました。来場困難な会員のために重要なセッションではオンデマンド配信を併せ行いました。Postgraduate courseはオンデマンド配信としました。ポスター発表はオンデマンド配信とし、最優秀および優秀ポスター発表は展示ホール内のポスター・講演会場で行いました。上級セッションでは海外の講演者や国内の来場困難講演者のためにZOOMでリアルタイムに現地での討議にご参加いただきました。
 海外からは33名のご講演をいただき、そのうち12名が3年振りに直接会場に来訪されました。世界の第一線における診療・研究の一端を直接会場で示され、ディスカッションにご参加いただいたことに感謝申し上げます。
 1,266の演題応募をいただきました。内訳は領域横断が96、心臓707、呼吸器398、食道65でした。上級セッションへの応募は457題でした。上級演題公募および一般演題は応募演題を3~5名の査読者の厳正な評価に基づき採否を決定しました。上級演題、一般口演およびクリニカルビデオの採択率は 領域横断50.0%, 心臓47.4%, 呼吸器36.7%, 食道67.7%となりました。以上は現地で発表されました。ポスター発表は口演会期終了後にオンデマンドで閲覧できるようにしました。一般口演、ポスターの中からそれぞれ優秀演題・ベストポスター・優秀ポスターを選び会場で独立したセッションとして発表・顕彰しました。
 本学術集会の基調講演として、澤芳樹理事長が『日本胸部外科学会のめざすところ2022』を、中島淳会長が『協奏する胸部外科』を、荻野均分野会長が『My Cardiac Surgery』を、松原久裕分野会長が『難治食道癌克服への挑戦』を講演しました。昨年に引き続き、澤理事長と3領域関連学会理事長による4学会理事長対談を行いましたが、今回は厚労省医政局から山本英紀先生を招き、2024年度から医師にも適用される働き方改革に関する論議が行われました。
 特別講演として3演題を予定しましたが、2名が直前にCOVID-19に罹患されたため予定が変更となりました。特別講演1では2022年AATS会長を務められたカナダ University Health Network, Toronto大学の Shaf Keshavjee先生がWEBで”Defining your path in thoracic surgery”を、特別講演2では特定非営利活動法人日本胸部外科学会初代理事長を務められた慶應義塾大学元教授 小林紘一先生には『日本胸部外科学会の横断的機能』を講演いただきました。
 特別企画として、各委員会が「学芸企画」として倫理・安全管理委員会企画による医療安全講習会、研究・教育委員会企画による『JATS Research Project Award』、胸部外科医労働環境委員会企画による『若手胸部外科医の働き方改革』、専門医制度委員会による『新専門医制度のQ&A』、国際委員会による『ホームカミングセッション』を開催しました。また、若手胸部外科医による積極的な学会活動を支援するため、JATS-NEXT セッション、前述の領域横断分野ではキャリアパス形成に関するセッションなど新しい試みが行われました。
 2019年に京都で行われたAATS/JATS共催Aortic Symposiumから3年振りにAATSとの共催で10月8日にパシフィコ横浜第4会場で終日Mitral Conclave Workshopを開催しました。今後毎年の開催、さらに呼吸器分野における共催などの発展が期待されます。
 企業との共催でランチョンセミナー32、イブニングセミナー1、イブニングシンポジウム1を開催しました。また、展示ホールではポスター・講演会場にて優秀ポスター発表を設けるとともに、 MICS, TEVER, TAVI, 大動脈弁形成ワークショップを開催しました。多くの企業が展示ブースを開設し、久々に展示会場に活気を取り戻すことができました。
 今回の参加登録者数は3,689名であり、現地参加された人数が1,000名を超えた日もありました。まだ以前の集会の賑わいには及びませんが、ご参加された多くの方々から、久々に現地でのディスカッションや会員同士の再会・情報交換を楽しまれた事を伺いました。
 幸いなことに会場内での感染報告も無く全日程を無事に終了でき、大変うれしく思っております。1年半にわたる準備期間の間にはいろいろな障害が立ちはだかることもありましたが、荻野先生、松原先生3人合わせての協力、日本胸部外科学会事務の小林様・浅越様の労苦を厭わぬ開催準備への熱意、そして株式会社コングレの方々適切な運営に本当に助けられました。また、ご支援をいただいた多くの企業の方々、なによりも本集会に参加され、ご発表・討議をいただいた会員の皆様に深甚な感謝の意を改めて表します。

No.68(2022.9)_nakajima(160×190).png (50 KB) 中島 淳
所属:東京大学大学院医学系研究科呼吸器外科学
卒業:東京大学(1982年)
経歴:1982年 東京大学医学部附属病院 研修医
   1984年 国立療養所東京病院外科
   1986年 東京大学医学部附属病院胸部外科
   1992年 学位取得
   1992年 米国 Washington University胸部外科 リサーチフェロー
   1993年 東京大学医学部附属病院胸部外科 助手
   1998年 同 講師
   2001年 東京大学大学院医学系研究科呼吸器外科学 助教授
   2011年 同 教授
   2019年  東京大学医学部附属病院 副院長
趣味:ピアノ演奏

【荻野 均 分野会長(心臓)挨拶】
第75回日本胸部外科学会学術集会を終えて
 この度、伝統ある日本胸部外科学会の第75回学術集会を心臓分野会長として担当させていただきました。この上ない栄誉であり、そして何よりも現地で無事開催できましたこと、会員の皆様の温かいご支援の賜と深く感謝いたします。
 まずは、中島統括会長、松原分野会長と共にトロイカ体制で、「協奏する胸部外科」を具現化できたことに大きな意味を感じます。本テーマは澤理事長、大北前理事長を中心に推し進めて来られた本学会のめざすべき方向性であり、第73、74回学術集会と引き継がれてきたこの流れを継続し、更に発展させることができたと振り返ります。本学会は各専門領域学会の上流に位置する基盤学会として長い歴史を経て発展して参りました。昨今の医療の細分化と共に基盤学会の存在意義はやや薄れつつありますが、やはり開催規模も大きく、国内外からの多くの参加者が集い多種多様な情報を交換し合う本学術集会の意義は大きく、各専門領域学会を牽引する形で本邦の胸部外科全体の発展に向けての中心的位置づけを再認識した次第です。具体的には、海外のAATS/STS、EACTSのカウンターパートとしての国際性の堅持と共に、本邦の胸部外科領域の臨床・研究の発展、外科医の育成、国民の健康保持への貢献などを主要命題に、外科離れ、処遇問題、働き方改革、医療体制を含め社会全体を大きく変えたコロナパンデミックなど直面する重要課題に一致団結して取り組む必要があります。その主たる機会が学術集会であり、久しぶりに多くの参加者が一斉に集い対面で熱い議論を交わすことができました。
 心臓領域では、最新、再考、多様性、国際性、教育・育成をキーワードに、国内外の会員からなる部門を13組織し、「協奏する心臓外科」を胸にオールジャパン体制でプログラムを作成しました。ご尽力いただいたプログラム委員の先生方には深く感謝いたします。結果的にシンポジウム 7、パネルディスカッション 8、ワークショップ 10、テクノアカデミー 6、ディベート 12の上級演題(指定159、公募66〔公募採択率9.3%〕、WEB開催の可能性を鑑み指定を多めに配分)に加え、269演題の一般口演(採択率 38.0%)、225演題のポスターを選出しました。領域横断心臓関連では、先を行く肺・食道領域から学ぶ低侵襲外科手術、手術に直結する最新の画像診断・評価技術、ビッグデータから学ぶ臨床研究への取り組み、Developing academic surgeonへの道のり、食道外科医と直論する大動脈食道瘻治療などを、心臓単独では最新の低侵襲心臓手術、カテーテル治療との対比と共存、新たな外科手術の展開・工夫、ますます進化・発展する弁形成・修復術、国際的トピックスであるFrozen elephant trunk法、循環器診療の根幹たるショックに対する循環補助、心停止後心による心移植、DT時代のVAD治療、長期予後を見据えたCABGのグラフトデザイン、議論の尽きない先天性部門の姑息術・根治術、Maze手術のknow-how、弁形成・温存と比べた弁置換術の位置づけ、心臓外科の根幹たる心筋保護、MICS/ロボット手術における体外循環トラブルシューティングなどについて多職種間で深く掘り下げました。さらに、心臓外科の未来を変える女性心臓外科医からの提言、発展し続ける再生医療、魅力ある海外留学・修練、発展の著しいアジア諸国の先天性心臓手術など、多様性と国際性をテーマに議論の場を持ちました。また目玉企画として、若手・中堅からなる「JATS-NEXT」の誕生元年を記念し、展示ホールにwet・dry laboのコーナーを設け、企業支援の下、JATS Academy関連OffJTプログラムを開催しました。更に特別国際プログラムとして、AATSの協力の下、第一回AATS/JATS Mitral Conclave Workshopを開催し、欧州からのWEB参加もあり、片時でしたが「世界の今」を実感できたと思います。同時に個人的念願のAATSとの連携も締結でき、国際化への「地均し」ができたことも大きな満足の一つです。
 その一方で様々な困難・制約、そして妥協があり、初期の構想どおりには行かず、皆様のご期待に沿えなかった部分も多々ありました。ただ、そのような中においても、各領域が切磋琢磨し輝かしい未来に向け更なる発展をめざす最大公約数的な学術集会への道は継続できたと振り返ります。伝統と歴史は何よりも変えがたく、75年間にわたり本学術集会で議論された事柄や人的交流はわれわれ三領域の大きな財産です。本学会の発展が各専門領域学会の発展につながり、また、逆も然りと信じます。
 最後に、「協奏する胸部外科」は未だ道半ばです。本学会の今後ますますの発展を期待します。会員の皆様、事務局、そして協賛企業の方々、ご支援有り難うございました。やりきれました。

No.68(2022.9)_ogino(160×190).jpg (8 KB) 荻野 均
所属施設:東京医科大学 心臓血管外科学分野(主任教授)
卒業大学:広島大学
経歴:
1982年 神戸市立中央市民病院胸部心臓血管外科 研修医・専攻医
   1987年 京都大学心臓血管外科 医員
   1991年 武田病院心臓血管外科 医員
   1992年 Harefield病院心臓胸部外科 senior registrar
   1994年 天理よろづ相談所病院心臓血管外科 医員・副部長
   2000年 国立循環器病研究センター心臓血管外科 医長・部長
   2011年 東京医科大学心臓血管外科 主任教授
趣味:スポーツ全般、ドライブ・旅行、神社仏閣巡り、家事手伝い
好きな言葉:Be the best you can be、為さざるなり、能わざるにあらざるなり

【松原 久裕 分野会長(食道)挨拶】
第75回日本胸部外科学会定期学術集会-協奏する胸部外科-を分野会長として開催して
 この度の第75回日本胸部外科学会定期学術集会を統括会長の中島淳教授、分野会長(心臓)の荻野均教授とともに分野会長(食道)として開催致しました。開催前の挨拶でも書かせて頂きましたがたいへん歴史ある本学会の分野会長を拝命し、たいへん光栄に存じております。貴重な機会を与えて頂いた本学会役員、会員の皆様に心より感謝申し上げます。
 本学術集会のテーマである中島会長の提案による「協奏する胸部外科」というたいへん魅力的な、また3分野が協調して活動する本学会にまさに最適のテーマの下、中島統括会長を荻野分野会長とともに補佐しながら、準備を進めました。皆様のご支援もいただき、たいへん素晴らしいプログラムが構成され、充実した学会となりました。COVID-19が完全に収束しない中での開催であり、準備には苦労が多かったのですが、無事現地開催が可能でした。Hybridではありましたが、現地にも多くの会員が参加され、盛会のうち終了できました。その後のオンデマンド配信も多くの方に視聴いただき、無事終了しました。非常に有意義な学会となったと信じております。
 —食道外科医が胸部外科学会で学ぶ意義— が本学会では重要な課題だと思っています。今回は国際食道疾患会議(ISDE)が日本で開催されることとなり、日本食道学会も連続して開催する方針となり、通常6月に開催される日本食道学会がずれこみ、胸部外科学会の2週前に開催となるたいへん難しい状況となりました。ISDEの方が食道学会の後に開催さるため、ISDE と本学術集会との間隔はわずか10日ほどしかなく、コロナの状況も重なり海外からの講演は最小限としました。このような食道分野としては非常に厳しい状況でありましたが、たいへんすばらしいプログラムも完成することが出来ました。また、3分野共通テーマのセッションも3分野の会長で検討を重ね、素晴らしいセッションとなりました。この部分こそが食道外科医が最もこの学会に参加する意義がある部分だと思っておりましたが、会場でもたいへん素晴らしい発表・質疑が展開され、まさに本学会の醍醐味が満喫できた気がします。このような状況だったため食道外科医の参加者は例年よりやや少ない印象でしたが現地開催による活発な討論が繰り広げられました。開催前の挨拶にも書きましたが、以前にも増して消化器外科を専門とする食道外科医が多数を占める現在こそ、食道外科医にとって今まで以上に重要臓器が存在する胸部縦隔の精緻な手技を同じ部位を操作する心臓外科、呼吸器外科から多くの事を学べ、さらに共同での治療が必要な疾患・病態への対応のさらなる開発を展開できる本学会の重要性が再認識できたと思っております。
 皆様のご支援をいただき私が会頭として主催した2021年の第121回日本外科学会定期学術集会の際はCOVID-19の影響により、第1会場のみ設営し、現地より配信、その他はすべてWEB による開催でした。会頭講演は設営した第1会場で行い、磯野可一先生に司会をしていただきましたが、聴衆はほぼ医局員、同門の先生のみでした。今回の分野会長講演は東海大学の幕内博康先生に司会を賜り、パシフィコ横浜会議センターのメインホールにて無事行う事が出来ました。個人的にもたいへん記念となる講演となりました。貴重な機会を与えて頂き、心より感謝申し上げます。
 中島統括会長、荻野分野会長の会長講演はいずれもお二人の人柄が滲み出ると同時に多くの業績が繰り広げられ、たいへんすばらしい記憶に残る感動的な講演でした。お二人の先生と一緒に学会を開催できたことをたいへん誇りに思うことができました。ありがとうございました。
 拡大プログラム委員会も感染防止対策の下、開催することができました。中島統括会長のお嬢様ご夫妻がプロの音楽家であり、イ・フィラトーリ・ディ・ムジカというデュオとしてリコーダーとバロックハープを演奏されました。たいへん素晴らしいだけで無く、バロック時代の楽器が非常に興味深く、感銘を受けました。また中島先生ご自身もピアノを弾かれるという事を知り、たいへん驚きました。プロ顔負けの演奏で非常に素晴らしく、これが今回のポスターの協奏する胸部外科に繫がるのだと得心しました。
 今回の学会を開催するにあたりご支援頂いた澤芳樹理事長を始め役員、会員の皆様に心より感謝申し上げます。また、準備から運営まで多岐にわたり一緒に協力して頂いた胸部外科学会事務局、コングレの皆様、そして中島教授の教室、同門の皆様、荻野教授の教室、同門の皆様、そして当科の教室員、同門に感謝してこの項を閉じたいと思います。すばらしい学会をありがとうございました。

No.68(2022.9)_matsubara(160×177).png (38 KB) 松原 久裕
所属施設:千葉大学大学院医学研究院 先端応用外科
卒業大学:千葉大学(1984年)

経歴:1984年 千葉大学医学部附属病院(第2外科)研修医
   1991年 千葉大学大学院医学研究科博士課程(外科系)修了
   1996年 千葉大学医学部附属病院助手(第2外科)
   2000年 文部省在外研究員(University of California,San Diego及び
        Johns Hopkins University外科)
   2002年 千葉大学大学院医学研究院講師(先端応用外科学)
   2007年 同教授
   2013年 千葉大学医学部附属病院 副病院長
   2021年 千葉大学大学院医学研究院長・医学部長
趣味:水泳、スキー、音楽鑑賞

-2.定時評議員会 役員等選挙(選出)結果

次々期統括会長【第78回】
 安田 卓司(食)
次期分野会長【第77回】
 佐藤 之俊(肺)亀井  尚(食)
理事
 椎谷 紀彦(心)宮地  鑑(心)鈴木 孝明(心)
 芳村 直樹(心)福田 宏嗣(心)
 佐藤 幸夫(肺)岡田 守人(肺)大久保憲一(肺)
 岩田  尚(肺)
 安田 卓司(食)
監事
 小野  稔(心)

-3.各種表彰

-2022年度(GTCSVol.69)優秀論文賞-

心臓血管外科

 前⽥ 孝⼀(⼤阪⼤学⼤学院医学系研究科低侵襲循環器医療学(⼼臓⾎管外科) )
 Development of a new risk model for a prognostic prediction after transcatheter aortic valve replacement.
 菊先  聖(久留⽶⼤学外科学講座 ⼼臓⾎管外科)
 Prevention of postoperative intrapericardial adhesion by dextrin hydrogel.

呼吸器外科

 吉安 展将(東京⼤学医学部附属病院・呼吸器外科)
 Current status of inhaled nitric oxide therapy for lung transplantation in Japan: a nationwide survey.
 前屋舗 ⿓男(順天堂⼤学医学部 呼吸器外科)
 Negative impact of chemical pleurodesis on postoperative pulmonary function for managing prolonged air leakage after segmentectomy.

食道外科
 井上 聖也(徳島⼤学⼤学院医⻭薬学研究部 胸部・内分泌・腫瘍外科学分野)
 Biomarkers predicting the response to chemotherapy and the prognosis in patients with esophageal squamous cell carcinoma.

-2022年度 Best reviewer 賞-

心臓血管外科
 阿部 知伸(群⾺⼤学⼤学院医学系研究科 総合外科学講座循環器外科学)
 築部 卓郎(神⼾⾚⼗字病院/兵庫県災害医療センター⼼臓⾎管外科)
 岡本 ⼀真(近畿⼤学医学部 ⼼臓⾎管外科学)

呼吸器外科

 鍵本 篤志(呉医療センター中国がんセンター呼吸器外科)
 上垣内 篤(広島⼤学原爆放射線医科学研究所腫瘍外科研究分野)

食道外科

 佐伯 浩司(群⾺⼤学⼤学院 総合外科学講座 消化管外科学分野)

-第5回 JATS Research Project Award-

JATS award for transitional clinical research (臨床研究助成)
(研究期間:3年 支援額:100万円 選出数:1件)

肺切除術後の間質性肺炎急性増悪症例における予後および治療反応性予測因子についての多機関共同後方視的観察研究
 木村 亨(大阪大学大学院医学系研究科 呼吸器外科)

JATS award for young investigators (若手胸部外科医研究助成)
(研究期間:2年 支援額:50万円 選出数:3件)

心臓
WLST後のunloadingはDCD移植心における右室機能障害の予防に寄与しうるか
 内山 光(九州大学病院 心臓血管外科)


心臓死ドナーからの肺・肝・腎の移植を企図したThoracoabdominal Normothermic Systemic Perfusionによる新たな摘出前臓器保護法の開発
 田中 真(岡山大学病院 呼吸器外科・臓器移植医療センター)

食道
ロボット支援下食道切除術と胸腔鏡下食道切除術の安全性、有用性を比較検討するランダム化比較第2相試験
 坊岡 英祐(浜松医科大学 外科学第二講座)

-第75回日本胸部外科学会定期学術集会 JATS Case Presentation Awards-

最優秀演題

心臓

 CCPA5-8 角 裕一郎(九州大学 心臓血管外科)
 CCPA4-6 川端  良(兵庫県立こども病院 心臓血管外科)

呼吸器

 LCPA3-2 岡  直幸(慶應義塾大学医学部 外科学(呼吸器))

食道

 ECPA1-8 吉留 しずか(鹿児島大学医学部 消化器・乳腺甲状腺外科学)

優秀演題


心臓

 CCPA2-5 松田  優(大阪大学医学部 心臓血管外科)
 CCPA5-1 富田  聡(大阪大学大学院医学系研究科 心臓血管外科)
 CCPA3-7 松橋 和己(藤田医科大学病院 心臓血管外科)
 CCPA2-8 菅野 靖幸(獨協医科大学病院 心臓・血管外科)
 CCPA1-6 大谷 将之(東北大学大学院医学系研究科 外科病態学講座心臓血管外科学分野)
 CCPA3-2 松島 宏和(沖縄県立中部病院 心臓血管外科)
 CCPA1-3 小林 遼平(新潟県立中央病院 心臓血管外科)

呼吸器

 LCPA2-3 金城 華奈(順天堂大学 呼吸器外科)
 LCPA2-5 井口 豪人(和歌山県立医科大学 外科学第一講座)
 LCPA1-2 清水 麗子(東京都立駒込病院 呼吸器外科)
 LCPA1-1 冨山 史子(東北大学加齢医学研究所 呼吸器外科学分野)
 LCPA1-7 鈴木 啓史(大阪鉄道病院 呼吸器外科)

食道
 ECPA1-7 百瀬 洸太(近畿大学病院 外科)

2.第17回日本胸部外科女性医師の会(Woman in Thoracic Surgery:WTS in Japan)開催報告

No.70(2023.3)_第17回日本胸部外科女性医師の会(トリミング).png (393 KB)
 今回は、第75回日本胸部外科学会学術集会の第1日目、パネルディスカッション「女性心臓外科医が心臓外科の未来を変える?」に引き続き開催させていただきました。日本における若手医師の外科離れに焦点を当て、テーマを「医療界における潜在的"Machismo"からの脱却-世界の変革過程から学ぶ」とし、ミネソタ大学医学部心臓胸部外科教授であるRosemary Kelly先生と、女性医師の就労環境やスウェーデンの医療政策を研究しておられる鳥羽商船高等専門学校准教授である深見佳代先生のお二人にご講演いただき、座長は東京大学心臓外科の小前兵衛先生にお願いしました。なお、ご講演内容の詳細は本会ホームページ、スライドは掲示板(WTS in Japan Forum、事前登録制、詳細は後述)に掲載していますので、多くの皆様にご紹介ください。

 Rosemary Kelly先生は“Women in Cardiothoracic Surgery Leadership”と題して、Secretaryを務められる米国胸部外科学会(American Association for Thoracic Surgery:AATS)のレポート等を基に、女性の心臓胸部外科医を増やす取り組みをご紹介くださいました。Kelly先生は外科レジデント、心臓胸部外科レジデント、准教授、教授、と順調にキャリアを積まれ2019年に講座主任となられました。キャリアと共に、それぞれの地位における女性の割合は増加してきましたが、米国でも最近やっと心臓胸部外科専門医の女性比率が7.5%になったところです。医学部卒業生の半数を女性が占める米国では、女性が心臓胸部外科を選択しなければ、今後さらに需要が増加する心臓胸部外科医が不足することになります。あるレポートでは、医学界の女性には依然として重大な障壁があり、専門職への昇進と常勤ポストへの平等な機会がないと報告されており、燃え尽き症候群、離職率、生産性の低下などの問題との関連が推察されています。さらに、外科など女性が30%未満の部門では、性別に基づく軽視が問題となっており、女性を外科手術に惹きつけるためには女性が指導的立場に就いて医学界での認識と文化を劇的に変える必要があります。米国胸部外科学会(AATS) は女性会員の募集に力を入れており、現状を改善させる方向に進んでいますが、「A lot to do!-すべきことはまだまだある-」のスライドで講演を締めくくられました。

 深見佳代先生は、新進気鋭の経済学者でこれまでにスウェーデンの医療政策や女性医師の就労環境研究に取り組んで来られました。今回は、直近10年間に発表されたスウェーデンの医学部や病院に所属する人を対象とした研究報告をご紹介いただきました。2018年のデータでは、スウェーデンの女性医師率は49.3%(日本は21.8%でOECD 37か国中で最下位)と医師数に男女差はほとんどありませんが、外科系診療科の女性は少なく、外科の職場文化が若手医師(特に女性)を遠ざけているのではないかと推察されます。スウェーデンでは、医学部の臨床実習中に無自覚にジェンダーステレオタイプに晒され、女子学生は目立ちにくくなるように外見を整えて場に溶け込むようになり、男性学生は反発や抗議をしないことで自分が性差別や不平等を肯定する立場になったことを自覚し自分を責めるようになります。外科には「権力の乱用」、「性差別的冗談」、「マッチョな隠語や態度」が蔓延しており、これは同意できない職場文化と認識されており、男性医師から自分の同僚になる可能性がないかのように話しかけられることが女子学生の外科への関心を消失するきっかけとなっていました。日常的に積み重なる微妙な不快感や些細な経験の繰り返し(マイクロ・アグレッション)が、女子学生のキャリア志向を阻害し、専門分野の選択における男女分離のパターンを永続化させています。医学部では、権威ある立場の医師が発する不適切な発言が許容され、ジェンダー教育が軽視されています。女性は不快な職場文化を避けるため消去法で診療科を選択する傾向があります。いくつかの事例から、日本の医学部や病院における職場文化(特に外科)も快適さに課題があると推測されます。外科における45歳未満の男女別医師数の変化は、20年間で男性は120人減少し女性は70人増加していますが、男性医師の急激な減少を女性医師数では補えておらず、このままでは外科医数は減少の一途となります。上位的立場へのジェンダー教育を行うと同時に、各外科医もジェンダーバイアスのある職場文化を再生産する立場になりうることを自覚する必要があると述べられました。

 今回のテーマに挙げた “Machismo(マチスモ)” とは「《男らしい男を意味するスペイン語のmachoに由来し》、男っぽさ、誇示された力、男性優位主義」のことです。今回の深見先生のご講演で、私たちが日常的に受容している環境がMachismo的であり、社会全体では共有できない価値観で成り立っているとご指摘いただきました。最近注目されているUnconscious Bias(無意識の偏見)の一つです。Kelly先生も、医師の半数が女性である米国では外科医不足が深刻な問題となっていることを指摘されました。その原因として「マチスモ」「職場文化」「マイクロ・アグレッション」の存在が疑われます。今後急速に女性医師数とその比率が増加する日本は、現時点で女性の社会参画で先を走る国々の問題意識と解決策を先取りできれば、遅れを取り戻せる可能性がありますが、そのためには医療界、特に外科における潜在的なMachismoを早急に自覚し乗り越えるべきだと感じました。全世代に向けての教育の機会が必要です。

 今回の会合開催にあたり、学会事務局、第75回日本胸部外科学会事務局と会頭 中島淳先生並びに分野会長(心臓) 荻野均先生、ご共催いただいた日本胸部外科学会と日本医師会、温かいご理解とお力添えをいただいた皆様に心より感謝申し上げます。

 最後に、冒頭でご紹介した掲示板についてお知らせいたします。オンラインでの双方向性の意見交換の場として掲示板を立ち上げました。会員の皆様のみならず、胸部外科に興味のある若手女性医師の皆様にもご参加いただければ幸いです。 なお、掲示板の閲覧と書き込みは不正利用を避けるために参加者限定とさせていただき、匿名での投稿が可能です。 参加に際しご心配な点等がありましたらお知らせいただければ幸いです。掲示板参加ご希望の方は、本会ホームページのお問い合わせから「掲示板参加希望」をご選択ください。また、運営スタッフも募集していますので、お気軽にお声がけいただけますと幸いです。一人でも多くの仲間を作りましょう。

No.70(2023.3)_Sachiko Kanki.jpg (7 KB) 神吉 佐智子
所属施設:大阪医科薬科大学胸部外科(専門:心臓血管外科)
卒業大学:大阪医科大学
経歴:1999年 大阪医科大学医学部卒業、大阪医科大学胸部外科入局
   2005年 大阪医科大学胸部外科 助教
   2007年-2010年 ハーバード大学医学部(ブリガムウイメンズ病院)リサーチフェロー
   2010年 大阪医科大学胸部外科 助教
   2020年 大阪医科大学胸部外科 講師
趣味:読書、ピアノ、ピラティス、山歩き
好きな言葉:Where there is a will, there is a way. (意志あるところに道は開ける)

3.フェローシップ受賞者留学体験記

2020年度JATSフェローシップ(呼吸器外科分野)
St. James’s University Hospital, UK 朝倉 啓介

 2022年10月より約7週間、英国リーズのSt. James’s University Hospitalで研修してまいりました。受け入れ担当のBrunelli先生(ESTS2022会長)には初日に「我々はこのフェローシップをできるだけ生産的なものにしなければならない」と言われ、毎日の研修スケジュールを組んでいただいたり、研究のために執務室を自由に使わせていただいたり、最大限のサポートをいただきました。研修では、手術合併症リスク因子についての研究、コンソールで見学できたロボット手術、特殊な気管支鏡(電磁ナビゲーション気管支鏡、気管支バルブ、レーザー治療、ステント)、病棟や外来見学を通じて理解したNHSの医療システム(日本の公的医療の未来像かもしれません)など、多くの貴重な学びを得ることができました。また、手術室ではBrunelli先生やPapagiannopoulos先生(ESTS2018会長)を始めとするコンサルタントの先生方から、区域切除やリンパ節廓清などの手技に関する様々な質問を受け、有意義なディスカッションを行うことができました。現地では雑談を含めて手術中の会話が尽きることなく、それらやオフの交流を通じて、彼らの医療に対する考え方や文化を知ることもできました。7週間はあっと言う間でしたが、将来への財産となる経験ができたこのJATSフェローシップを、中堅・若手の先生方にぜひお勧めしたいと思います。
 最後に、Brunelli先生との間を取り持って下さった千田雅之先生、国際委員長の湊谷謙司先生、荒井裕国先生を始めとするJATSの皆様、スポンサー企業の皆様、応募に際して背中を押して下さった当科淺村尚生教授に、この場をお借りして心より御礼を申し上げます。リーズの先生方とのご縁を大切にしながら、今回の学びを今後の臨床・研究に生かし、この機会を下さったJATSに少しずつ恩返しをしていければと考えております。

No.70_朝倉啓介先生_トリミング.jpg (19 KB) 朝倉 啓介
所属施設:慶應義塾大学
卒業大学:慶應義塾大学
経歴:2002年 慶應義塾大学医学部外科学教室入局
   2011年 姫路医療センター呼吸器外科 医員
   2013年 慶應義塾大学医学部外科学(呼吸器) 助教
   2015年 国立がん研究センター中央病院呼吸器外科 医員
   2018年 慶應義塾大学医学部外科学(呼吸器) 専任講師
   2021年 慶應義塾大学病院 病院長補佐
趣味:スポーツ観戦
好きな言葉:一期一会


2020年度JATS/AATS Foundation Fellowship(心臓血管外科分野)
University of Michigan, Samuel and Jean Frankel Cardiovascular Center, USA 杉山 佳代

 2022年5月1日から3ヶ月間、ミシガン大学の心臓外科にお世話になりました。当初私は別の大学病院に決まっていたのですが、コロナの影響で再開の目処が立たないと言われたので、AATSへ受け入れ先の変更をお願いして、ミシガンになりました。
 3ヶ月間、実に多くの手術を見学することができました。留学が決まった時から、自分がすこしでも関わっている分野の手術はできるだけ多く見学して勉強しようと心に決めていました。僧帽弁形成や大動脈弁置換はもとより、大動脈基部の手術、胸腹部瘤や時には心臓移植、CTEPHも見学し、たくさんの手術の記録やスケッチを残しました。Hybrid ORでのTAVRやTEVAR、時に小児心臓外科へも赴きました。優れた外科医は決まったストラテジーを持っており、個々の患者さんでそれを微調整することはあっても、ほとんど手術時間や内容に変化がないことを改めて知りました。再手術症例やTAVR後などのハイリスク症例が多く、こうした症例への戦略や工夫を知ることも非常に勉強になりました。TAVRでは週一回の症例検討会や術前カンファレンスに出席し、外科と内科の連携を学びました。同じく、Mott小児病院での小児循環器内科とのカンファレンスや月一回の合併症・死亡症例検討会にも出席させてもらい、大変勉強になりました。
 今回の留学をきっかけに、日々の鍛錬を欠かさず、謙虚な心持ちで全ての手術に臨み、多くの手術室スタッフに信頼される外科医になろうと思いをあらたにしました。この貴重な経験が今後の私の外科医人生の中で、大きな心の支えになると感じています。今回の留学を通じて、日本の心臓外科医のあり方についても深く考えさせられる機会となりました。このような貴重な機会を与えてくださったJATS、AATSの関係者の皆様にお礼申し上げます。また、困難な状況で私を快く送り出してくれた医局の皆様、渡航前の費用を負担してくれた愛知医大、最後に、つねに私の健康を気遣ってくれた家族に感謝します。

No.70_杉山佳代先生_トリミング.jpg (17 KB) 杉山 佳代
所属施設:愛知医科大学病院
卒業大学:大阪市立大学
経歴:2001年 国立国際医療センター 外科系研修医およびレジデント 
   2006年 国立循環器病センター レジデント
   2009年 済生会和歌山病院 心臓血管外科
   2012年 東京医科大学病院 心臓血管外科
   2017年 愛知医科大学病院 心臓外科
趣味:美術館めぐり・歌舞伎鑑賞
好きな言葉:人事を尽くして天命を待つ


2022年度JATS/AATS Foundation Fellowship(心臓血管外科分野)
University of Michigan, USA 稲葉 佑

 私は2022年度AATS/JATS fellowshipプログラムにて、2022年8月から11月の3カ月間ミシガン大学心臓外科へ短期留学致しました。留学先としてミシガン大学を選択した理由は、日本で心臓血管外科医として働きながらも、米国の一流大学及び外科医の手術を学び、日本の現状と今後の発展させるべき方向性を確認したかったこと、日々治療方針に苦慮している僧帽弁疾患において、ミシガン大学がAHAより僧帽弁形成術推奨施設に認定されていること、私の所属している慶應義塾大学の先輩である福原進一先生がFacultyとして所属され、近年TAVR/SAVRに関する数多くの臨床研究成果を発表されていたことなどです。
 私が滞在していた約3カ月間は Steven Bolling教授にホストを務めて頂きました。その間、計387例の手術症例があり、そのうち103例を見学することが出来ました。僧帽弁手術に関しては、多くの症例が正中開胸で行われていましたが、良好な視野作りから始まり、ほとんどが人工腱索を使用することなくleafletの処置のみで的確に形成されていました。TMVR/MitraClipなどのカテーテル治療も僧帽弁外科医が主体的に治療に参加しており、従来の外科治療に加え、新しい手技も積極的に取り入れて行く姿勢を学びました。大動脈弁手術に関しては、ミシガン大学の臨床データとSTSデータを元にTAVRのlimitationが判明しつつあり、将来の安全かつ長期的な成績が担保され得るTAVR in SAVRを見据え、全体のSAVR件数のうち約40%に積極的root enlargement SAVRが行われておりました。また成人の大動脈弁疾患に対するRoss procedureも行われており、人工弁との長期比較研究において、Ross手術の生存曲線がGeneral populationとほぼ同じであることを示した近年の報告と相まって、今後注目すべき術式と感じました。ほかにも、慢性B型解離において中隔壁のレーザーfenestrationによる有効な末梢landing zoneの作成や常温順行性脳灌流の取り組みなど、自施設の研究データを元に現状の問題点を把握し、既存の概念を突破すべくダイナミックに術式を開発していくAcademic surgeon達の姿勢は大変刺激的でした。
 ミシガン大学は、心臓外科レジデントプログラムの中でもトップクラスの人気であり、全米の心臓外科志望の外科レジデントの中でも、特に優秀な人材が集まっているとのことでした。短期間だけではありましたが、日本で働く身でありながら、彼らの仕事に対する真摯な姿勢、マインドを直に体感出来たのは貴重な経験となりました。
 このような貴重な機会を頂きました、日本胸部外科学会国際委員会の湊谷謙司教授、志水秀行教授、済生会横浜市東部病院の先生方及び家族に感謝の意を述べて留学体験記といたします。

No.70_稲葉佑先生_トリミング.jpg (17 KB) 稲葉 佑
所属施設:済生会横浜市東部病院
卒業大学:京都府立医科大学
経歴:2011年 慶應義塾大学病院 初期臨床研修医
   2013年 稲城市立病院 外科
   2014年 慶應義塾大学 心臓血管外科
   2015年 済生会横浜市東部病院 心臓血管外科
   2017年 慶應義塾大学 心臓血管外科
   2019年 独立行政法人国立病院機構東京医療センター 心臓血管外科
   2020年 済生会横浜市東部病院 心臓血管外科
趣味:旅
好きな言葉:ピンチをチャンスに変える


編集後記
広報委員会委員 眞庭 謙昌
 5月にはコロナウイルス感染症の扱いも5類に変わる予定となり、いよいよポスト・コロナのフェーズに移行していきます。ウィズ・コロナの体制を確立してきた医療施設・医療現場においては、これからが再び正念場になるともいわれています。
 このように医療を取り巻く環境が劇的に変化し続ける中、医師の働き方改革も1年後には本格的にスタートとのことで、休日・夜間業務の扱いの確立、タスクシェア、シフトにも取り組んでいかなければなりません。このような問題を解決していくために、医療現場ではICT活用への取り組みも必要性もさらに高まっています。緊急性を要する病態を扱う機会が多い我々の領域においても効果が期待できる種々のシステムが考えられます。例えば、オンコール体制では、患者情報を担当医が在宅で把握し、院内スタッフへ指示を出すなどの対応も考えられます。救急対応についてもクラウドサービスを利用して、救急隊や地域の救急病院とバイタルや画像の情報を共有し、緊急処置の必要性の判断をしながら搬送を行うシステムの構築も始まっています。これらの取り組みにおいては個人情報の取り扱いが解決すべき課題として残っていますが、DX推進の機運が高まっている中で、これについても早期に方向性が定まってくることが期待されます。電子カルテの病院間の共有も実現に向かって進んでいるとの話も耳にしますし、我々もこの潮流にしっかり乗っていくよう、アンテナを張っていなければいけないと思っています。
 今号では、中島淳統括会長、荻野均分野会長、松原久裕分野会長による第75回日本胸部外科学会定期学術集会の開催報告が掲載されています。ウィズ・コロナの状況の中、DXを駆使したライブ・オンデマンド配信を組み合わせての充実したプログラムに、皆様も現地参加も含めたいろいろな形での学会参加を満喫されたことと思います。ご尽力を賜った先生方に感謝申し上げます。
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